月は銀貨


 取り寄せていたアイルランドの紅茶が届いたので、早速ロイヤルミルクティにする。
 ケニア茶の強いコクと風味を、ミルクで和らげる。びっくりするほど美味しく出来た。この味も久しぶりだ。

 秋だな、と思う。



 先月見破られた手抜き仕事をやり直したものが、出来上がってきた。評判は上々。むしろ、絶賛されている。
 最初からそうしていたら良かったのにと思うが、それでも、失敗しなければ私はひとつのことを学ぶことが出来なかった。

 人間関係も概ね良好で、楽しく会社に行けている。
 わりと、良いのではないだろうか。



 ようやく三連休で、今日は、引越しをした恋人の買出しに付き合うことになっている。
 学生時代からの下宿を引き払い、職員住宅(庭付き一戸建て!)に移ったのだが、今まで下宿で共同使用だった家電の類を彼は持っていないのだ。

 引越し自体は、「働きに応じて庭を好きなように使わせてやろう」と戦国時代の殿様みたいな甘言で上手いこと後輩を使って終わらせてしまったようだが、足りないものがあまりにも多すぎて未だに生活できる状態ではないのだとか。本人の持ち物は、本当に本とわずかな衣類しかなかったのだ。
 もともと、どんなに苛烈な環境でも耐えられてしまう男なのだが、それは生活に関する無頓着さというか鈍さから来る強さなのではないかと、私は疑っている。冗談ではなく、「本さえあれば」生活できてしまうような男なのだ。

 そうは言っても、もう若い頃と違って無理がきく年齢ではない。これからは、もう少し人間らしい生活をするよう指導が必要だ。



 朝から穏やかな日差しで、あの残暑の厳しさはもうない。
 ゆっくりとカーテンを揺らす風と、花の匂い。虫の声。
 収束してゆく季節の気配。

 静かに、楽しもう。