天使の化石


 このところの急な冷え込みと忙しさからか、昔から持っている持病が出た。すぐに治りはするものの、わりと厄介なものだ。痛みが凄まじい。どの程度痛むかは見当がついているので不安は無いが、激痛疲れで消耗する。
 東洋医学では循環器系が弱いと生気も乏しくなるというが、私はまさにその典型だろう。こういう症状が出ると、全てに気力を失う。もっとも、痛みで疲弊しきってしまうのが最大の原因だろうが。

 昨日はどうしてもはずせない仕事があり、そのためだけに出社して用事が終わったらすぐに帰った。晩から高熱が出ることがわかっていたので、「明日は多分休むことになります」と予め伝え、実際そのとおりになった。
 細切れの睡眠で、あまり寝た気がしない。起きては汗を拭い、水分を補給する。そうやって、明け方頃ようやく眠ることが出来たが、数時間眠ったら悪夢で目が覚めた。
 ヨーグルトと果物を少量口にして、薬を飲んでまた眠る。

 昼を回った頃、会社から電話があって、いくつかの業務の手順を聞かれる。新人に教えておいたはずだがと思いながらマニュアルの場所を教えると、申し訳なさそうに「ほな、ゆっくり休んでな」と言われた。部署の人数が増えて業務が専任化したら、自分で無いとできない仕事が増えてしまった。これはどうにかしなければ。うかつに病気にもなれない。


 外は久しぶりに好天に恵まれていたようだが、熱のせいか肌寒く感じ、空気を入れ替えるために開け放した窓はすぐに閉めてしまった。


 珍しく、人肌恋しくなる。
 恋人がここに居たらいいのに、と思う。
 具合が悪いときに、そんなことを感じるなんて。いつもなら野生動物よろしく、弱ったところに人を近づけることを拒み、一人で治してしまっていたのに。自分でも少し驚く。

 このところ、彼に依存気味だ。本当はものすごく彼のことを好きなのだということを、最近自覚してしまったせいかもしれない。
 つきあってもう7年になろうというのに、よく飽きもしないものだと思うが、一方でそういう関係の深め方をきちんと出来てきたということなのかもしれないとも思う。

 二人の間に築き上げたもの、たとえば信頼であるとか敬意であるとか愛情であるとか、そういったものがちゃんと見える。
 その幸福に、少し笑う。
 こんなこと、絶対彼には教えないのだが。


 自分は破壊をもたらすだけ者ではなかった。
 そう知って、安堵する。