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 昨日は入社式だった。
 何も土曜日に無理してやることないのにと思いながらも、上々の天気で風も暖かく、ハレの日には相応しかったのではないかと思う。


 今年は初の試みとして、東京会場と大阪会場をインターネット回線を使ったTVシステムで中継しての合同入社式となった。しかも、続けて全社会議も行われる。そして、夕方からは別会場で懇親会だ。

 今回私は4時間に及ぶ中継会議の責任者だったのだが、始まる10秒前まで双方の音声が届かないという絶体絶命の危機や、プレゼン資料が表示されないとか回線が途絶えるというトラブルに見舞われたりとか何度か臨死体験をした。マリー・アントワネットだったら白髪になってるところだ。
 しかし、現場の人間が蒼白になっているようなトラブルにも、オーディエンスは意外と気づかないものらしく、反応も「あ、そんなことになってたの?」とか「そういえば、ちょっと遅れてたね」とかそんな程度。まぁ、みんなが気づかないくらいにはトラブルのリカバーが出来ていたからなのかもしれないけれど、それにしても今回のセッティングはまったくの敗北だ。

 終了後にトラブル報告と謝罪をしたら、役員に「あんなのプロの業者がする仕事だよ。よくアナタ一人でやりきったね。大変なことだよ。お疲れさん。」と言われて、涙が出そうになった。
 「いえ、完全に私の負けです。」といってさがったが、彼の言葉で少し報われた。

 しかし、これでノウハウはわかった。素人の手で何とかできる規模ではなくなったということが正しく認識できたし、プロを使う金を使ってもいいというお墨付きもいただいた。
 私の悪いところは、機械関係は特に、人に指示するより自分でやってしまおうとするところだ。今回アシスタントをしてくれた後輩は、私が取り掛かっていること以外の全てのことを、私が指示しなくても先回りして動いてくれる子だったので助かったが、これが単に指示を待つだけの子だったらまったくものが動かなかっただろう。

 とにかく、私は人の使い方を覚えなければいけない。本番に指揮者が動くと、刻々と移り変わる状況の把握と情報の集約ができなくなる。
 来年こそ成功させるぞ。




 そんなわけで、今日は一日しか無い週末を自堕落に過ごした。
 この一週間は毎日帰りも遅く、したがって睡眠時間も短く、今日は取り返すように惰眠を貪ってやったのだ。明日からまた忙しいんだい。


 夕方、恋人の誘いで食事に出て、散歩した。
 高台にある私の家からは、雨上がりの街のやわらかい緑の中に、五分咲きから満開の桜が所々で杜を作っているのが見渡せる。その道を選んで歩く。

 桜の下を歩きながら、恋人の暖かい手が私の冷たい手を引いてくれる。
 髪を弄る緩い夕風。暮れてゆくバーミリオンと群青の空に浮かぶ、細い三日月。


 こんなに優しい色を、久しぶりに見た。