太陽が西から昇る日。


 オフィスのビルのエントランスに、昆虫の死骸が落ちていた。
 森で樹液を吸って生きるような甲虫。風に飛ばされたのか何かに紛れてきたのか。何だってこんな乾いた、木の無い場所で。

 少し眺めて拾い上げ、植え込みの土の上に置いた。
 なんだか、自分みたいだと思った。

 せめて、土に還れ。



 八月は夏らしく忙しく予定が立て込み、帰省して両親と京都に小旅行に出かけ、休みが終われば博士論文執筆中の恋人の家に遊びに行っては研究頭脳フル回転の恋人のペースに巻き込まれ、休みが終われば仕事は増殖し、季節は移ろい、いつの間にか夏は終わろうとしている。

 昨夜の豪雨が上がったら、すっかり秋になっていた。
 人の気も知らないで。


 心身共に少々バランスを崩している。
 マクロな意味での自分の身の置き所を図りかねたり、免疫力低下による感染で身体を壊してみたり。うっかり食欲を失ってみたり、人と眼を合わせられなくなったり。

 まるで、十代の頃のような心許なさ。
 あの頃と違って、誰の庇護も無いと言うのに。



 旅にでも出ようかな。