これが、さいごの食物。

KyrieEleison2005-07-06



 生理不順からくる体調不良と夏バテのあわせ技でダウンして、ひどい偏頭痛と貧血。
 次は絶対男に生まれ変わってやる(キリスト教徒ハ輪廻シナイヨ)、との誓いを胸に、会社を休むことにした。

 こうなるといつもの悪い癖で、すぐ食欲をなくす。
 食べるものを想像しただけで、吐き気がする。食べなきゃ元気になんてなれないのに。

 昼過ぎまでロフトで寝込み、このまま何も食べないと二度と起き上がれなくなるようなプチ生命の危機を感じて起き出す。ろくなものの入っていない冷蔵庫(調味料ばっかで食材が乏しい)を漁り、なんとか水とヨーグルトとチーズを口にする。

 シャワーを浴びて出てくる頃には、雨が止んでいた。
 空の様子を眺め、恐る恐る洗濯なんてしてみる。


 まともな食材を入手すべく、ふらつきながら自転車で市場(スーパーマーケットではない)に。朝収穫された新鮮な野菜や果物が並ぶ、ファーマーズマーケット

 視覚と聴覚に障るもの、つまり、購買意欲を促すためのうるさい音楽や所狭しと並べられた装飾過多な包装商品がないので、タマシイ的に元気の無いときはここへ行く。ここにあるものは、商品名と原材料と賞味期限と生産者名が書かれたラベルが貼られているだけだ。

 果樹栽培の盛んな土地なので、この時季はスモモやブドウなどの果物が多く並ぶ。はじけるように熟したスモモは滴るような甘さ。これは、この時季にここで買ったものが一番美味しいと思う。他にも、「柿本さんのトマト」だとか、「山下さんのナス」だとかを買う。

 とりあえず何か腹に入れようと買ったどこかの奥さんが作った天然酵母のパンと、このあたりの特産の珍しい柑橘ジュースを手に、マーケット前の堤防に腰を下ろす。

 増水した川が、ゆっくりと鈍く流れてゆく。その向こうには、対照的に澄んだ空気越しの山々。
 雨上がりの纏わりつくような湿度はいかんともしがたいが、気化熱によるのか少し涼しくなる。洗われた空気は心地いい。

 天から吹くような柔らかな風が、成層圏とその向こうの青さを予感させ、先日観た興福寺の四天王立像(康慶作)を思い出す。光背の火炎の揺らぎや翻る袖裾に、四方を守護する四天王が受ける天空の渺々と吹く風を感じた。その風を、思い出す。


 パンの天然酵母の酸味が、少し食欲というか気力を刺激した。
 ちゃんと食べなきゃ、と思う。肉とか動物性たんぱく質も、ちゃんと摂ろう。これでは、いつまで経っても体力がつかない。
 毎日、必ず一度は動物性たんぱく質を摂取しよう。

 家に帰って、早速料理を始める。マクロビオテックを所々取り入れた調理。
 ひじきと梅干と昆布を入れた雑穀米を炊く。風味付けに日本酒を少々入れるのがポイント。
 味噌汁は根菜を中心に具沢山。出汁は昆布とアゴ(トビウオの煮干)でちゃんととる。そうすると、薄味なのにしっかりした味噌汁が出来る。
 キャベツと豚肉をねぎ味噌でいためた野菜炒めをおかずにして、一汁一菜。正しい食べ物。

 自分で作ったものを食べると、外食での濃い味付けが結構味覚のストレスになっているのだと感じる。普段自分では、味噌や塩や香辛料やハーブを少々使うのみなのだ。

 お腹がいっぱいになって、少し眠った。
 陽が傾いた頃に目が覚めると、頭が割れるような頭痛が随分治まっていた。

 窓から、赤く染まった雲が見えた。
 近所の子供が声を合わせて数え歌をうたっている。

 正しい夕焼けに思えた。