蜩の声も絶え

自分が何者でもないつまらなくありふれて薄っぺらな小さなものになっていく感覚を、私はまだ覚えているだろうか。
あるいは、それすら喪ったのだろうか。


本当は、郷愁の中に在れば幸福だった。
世界は強烈な色彩に彩られ、光は眩しく、闇は澄んでいて、笑いもせず、それでも慈しみ、時に渇望し、天を仰ぎ、天を呪い、孤独は甘く、叫ぶより先に言葉に代え、奪うように与え、瞑目し、そして私は子供だった。


宵闇が東から降りる空の下、暖色の明かりが灯る家々の気配と、遠い電車の音。
人の営みとしてただ慈しむべき、それらはどこへ行った。

世界を見下ろす高台を、私は失った。



何の前触れもない、ひとつの永訣。
世界が閉じた。