水棲の神話

KyrieEleison2010-05-16

週末は奈良県南東部に行ってきた。室生寺と曽爾高原。三重県との県境エリアだ。
室生寺は、先日大学院のゼミに顔を出した恋人が、授業で取り扱っていた古地図の検証をしてみたいというリクエスト。曽爾高原は、だだっ広いところに行ってみたいという私のリクエスト。結果的にどちらも思いの外楽しんだ。


室生寺は古くから女人高野と呼ばれ、国宝の五重塔が有名な深山幽谷というに相応しい谷間の山寺で、年中参拝客が絶えない名刹。うちから車で一時間半ほどなので、長谷寺と併せてしばしば訪れる場所。

十数年前の台風で破壊され、再建された。
周囲の地形は屏風のような岩盤質で、岩山を切り開くように造られた境内の奥の院には弘法大師の御影堂がある。鬱蒼と木々の茂る中、崖のように急な階段を上らなければならないのだが、心得た参拝客は軽登山の格好で挑んでいた。

ナメてかかると痛い目見るぜ。

なぜ人は石を積むのだろう。おかげでなんだか賽の河原みたいな風情に。


偶然にもその日から金堂の内陣が特別公開されていて(なんか最近多いなそういうの)、普段は外側から薄暗い堂内を眺めるだけでよく見えなかった如来像や十二神将像を間近で見ることができた。平安期らしい柔らかさの如来像はどれも彩色が鮮やかに残っており、作りも美しい。十二神将像も、鎌倉期らしい躍動感と表情の豊かさ。保存状態からも、大事に信仰されてきたことがよくわかる。
金堂の特別公開は八月末まで開催されているようなので、機会のある人は是非行ったらよいと思います。今年の奈良は楽しいなー。


その後、川沿いにぽてぽて歩いて龍穴神社へ。ここは、名の通り竜神を祀っている雨乞いの社。創建はもはや不明らしいけれど、室生寺よりはるか昔から竜神が祀られていて、室生寺はこの神社の神宮寺*1だったと伝えられている。
本当に古くから、そして今もなお神域として守られていて、その空気を肌で感じられる場所。拝殿の奥に本殿があり、周囲は禁足地。奥には龍神が棲むという龍穴と滝があるが、参拝には神社の許可が必要で、さらに浄衣を身につけなければならない。そもそもこの神社も、目の前の道を挟んだ向こうの川から参道が繋がっており、本来川で禊ぎをしてから参るような作りになっている。そのくらい、徹底して穢れを排する神社。
数年前に何も知らずにドライブで通りかかった奥の龍穴の神域に入り込んでしまい、そのびりびりと切るような厳しい空気に驚いた。生活圏のどこにもそんな場所は経験がなくて、その異様さに慌てて出てきたのだが、あとからそこがこの神社の禁足地であることを知って納得した。何も知らずに触れてもそうとわかる。そのくらい、俗界とは異なる場所。
鳥居をくぐると巨木に囲まれた境内に入るが、拝殿の前はぽっかりと空いていて、陽が差し込む。ここだけ暖かい。脇にはこれまた古い二股の杉が、「連理の杉」として祀られていた。

一人で来たら、ちょっとどうにかなっちゃいそうな、そういう特異な場所だ。
拝殿に参って出ようとしたら、これまたスピリッチャルななにかをゆんゆん受けてそうな女の子が一人で鳥居をくぐってやってきた。なんかもう、大自然エナジーをいただいて喜びに充ち満ちちゃってオーバーフローしている感じの、目の焦点がやや近い一人笑顔がちょっと怖かったけど、まぁ気をつけて帰れ。家に着くまでが遠足だ。


室生寺にはよく行くモノの、実はあまり楽しんだことはなかったのだが、今回は堪能したな。やはり、私みたいに感受性が豊かでないタイプの人間は、前知識と目的意識は大事だな。何も知らずに感じるだけで楽しめるような柔らかい人間ではないので、予めいくつかのポイントをもうけてそれをクリアする方が性に合っている。要するに貧乏性なのだな。


駐車場に戻り車に乗り込んで、そのまま曽爾高原へ。室生よりさらに奥地へ向かう。ほぼ林道の細い道を走らせる割には行き先を示す標識が少なくて、不安になる。が、ライダーの一行や遠方ナンバーの車とすれ違うので、観光地がこの先にはあるはずだと信じて進む。やがて、不安もMaxになる頃ようやくきれいに舗装された道と合流し、いくつかの看板によりこの道が間違っていないことがわかり安心する。
曽爾高原は、関西ではススキ野原で有名な、関東で言うなら箱根の仙石原みたいな所だ。また、高地の少ない関西では珍しく高原らしい高原で、キャンプ場なんかもある。周囲の山の向こうに南アルプスでも見えれば、蓼科とかあの辺りに見えないこともない。見る必要もないけど。
ススキ野原は、亀山峠の裏側斜面になるらしい。切り立った峠までの一体が野原になっていて、秋には一面のススキを撮りにアマチュアカメラマンがひしめき合うとか。整備された道が峠まで続いていて、お亀池と呼ばれる湿地を回って登ることができる。周囲に遮るものがないので、峠に登る人たちの姿が小さく見える。こんな風に遠くの人が見えるというのも、珍しい光景だな。

向こうの方に見えるのが亀山峠。
もちろん登って、峠から見下ろす。

室生寺奥の院に続いてまた急な階段を上ったので結構疲れたのだが、普段大阪のど真ん中でビルの隙間の景色しか見ていないけれど、休日ちょっと車を走らせればこんな場所に辿り着けるのだから、悪くない生活だ。どころか、結構贅沢なんじゃないだろうか。
標高900mという場所なので夕方には肌寒くなってしまったが、帰りに近くの観光施設にある温泉に入って暖まることができる。特に期待していなくてふつうの大衆浴場に毛が生えたくらいかと思っていた「お亀の湯」というその温泉は、ぬめりの強いナトリウム炭酸泉で肌がツルツルになる。予想を大きく裏切る良泉だった。美人の湯として知られるらしいが、たしかに日本三大美人の湯と言われる和歌山の龍神温泉によく似た泉質。しかも、こちらの方が強い気がする。
施設内にはレストランもあり、何種類かの地ビールも楽しめるそうだから、夏にまた来てみたい場所だ(ビール飲めないけど)。


温泉で足の疲れもほぐれ、ほこほこと帰路に着く。
このところなかなか週末が充実しているのは、「ちょっとしたトレッキング+温泉」の組み合わせが功を奏しているのだろう。健康的だな!
そして、体育会系ではあるモノのバスケットと合気道、しかも職業は大学職員兼研究者という超インドア派の恋人が、私に付き合って高いところに登ったりするようになったのは大きな進歩だ。誕生日も近いことだし、プレゼントはアウトドアギアにしてさらに外に連れだすことにしよう。


今回の参考図書。

奈良散歩マップ

奈良散歩マップ

*1:神社付きの寺