飛んでゆけ

KyrieEleison2010-05-23



高雄山に行ってきました。
東京のミシュラン三つ星観光地であるところの高尾山とは違います。京都の奥山、昨年訪れた栂尾・槙尾と並んで「三尾」と称される、高雄山神護寺です。なんだか恋人が乗り気だったのです今回も。ええ、我々が大学院時代イヤというほど学んだ弘法大師空海に所縁の寺なので。空海と、当時すでに名を成していた最長がそれぞれの最盛期を過ごし、また双方の交流が伺える場所でもあります。


この高雄という土地は京都の北西部に位置し、庭木でよく使われる北山杉が有名です。都の北側の山で栽培されたから北山杉という中華思想丸出しのネーミング。中でも、台杉という仕立てのこういう木、日本庭園とかで見たことあると思います。うちの実家も張り切った造園業者に何本も植えられてしまい、「やり杉w」とか呼ばれてます。

中心の幹を切ってしまい、脇から生えた枝を伸ばす模様。長男に生まれなかったために土地を継げず小作人とかの水飲み百姓にならざるを得なかった次男坊以下とか、虐げられた者たちのルサンチマンを感じずにいられない栽培方法。*1


JR京都駅前からバスで小一時間。仁和寺の前を通り過ぎたあたりからどんどん山の中に入って、カーブにうとうとしているうちにとんだ山奥に辿り着きます。もみじの木が多く、このあたりはまた紅葉狩りの名所としても有名です。
バスを降りるとまず渓流に向かって石段を下り、そこから参道が始まります。人生谷あり山ありをこんなところで教えられました。350段あるそうです。

しかし、初夏の新緑が美しくまた川からの風が涼しいので、ハイキングにはちょうど良いと思います。割とふつうに軽登山な感じのスタイルの人も多く、先週の室生寺に引き続きここも舐めてかかると若干痛い目に遭う感じ。すれ違ったヒールのオシャレ母娘は「京の奥座敷」という響きに騙されたという顔をしていたので、「京の修行場」とか正しいイメージ作りをすべきかと。しかし、「紅葉の名所」なんてのは山と谷があると相場が決まっているのだから、彼女たちの読みの甘さは否定できない・・・。しかし、この先には女性に人気の僧侶明恵の寺で鳥獣戯画で有名な栂尾山高山寺もあるので、女旅で行きたくなるエリアではあるよねー。
さて、参道の途中には空海が「嵯峨天皇に寺の額を書けと言われたけど川が氾濫して出向けないのでこの岩を硯にして中に字を書いてみたらその墨が飛んで額に字が書けたよー」とう無茶な謂われの「硯石」があります。高野山の三鈷の松*2とか、空海はそういう豪腕伝説みたいな話が枚挙に暇ない。どんなマッチョ僧なの(つーか、マッチョでインテリって結構萌えツボか)。

山寺の宿命である高低差をひいふういいながら、ようやく山門に到着。

参拝料を払って門をくぐると、そこには意外に広い空間が。

開基の和気清麻呂の廟が右に見えます。こんな山奥に驚くほど立派な多宝塔や鐘楼が配置され、伽藍としてもかなりな規模。木々の間に見える金堂は、その威容にも関わらず静かな佇まいで、本尊は平安期作の薬師如来。脇に侍る日光・月光菩薩十二神将も併せて見事な迫力ながら、不思議と静謐な空間なのです。祈りの場所なんだなー。


さて、神護寺でもうひとつ有名なのが、かわらけ投げ。

各地でも見られますが、発祥はここだそうです。「厄除け」と書かれた素焼きの皿を崖下に向かって投げます。遠くへ投げれば投げるほど、厄が遠ざかるという寸法。しかし、恋人はなんか右曲がりに、私はひらひらと揺れながら手近なところに落ちていきましたが、それぞれ何を暗示しているのか。

結局厄は除けられたのかどうかわからないけれど、なんかずっと小さな虫が刺すでもなくただまとわりついてきて煩わしかったです。


しかし、同じ山寺でも奈良とはやっぱり雰囲気が違いますな。京都の山寺は瀟洒というか洗練されている。奈良のそれはもっと、荒削りというか質実剛健な感じがするのだ。それぞれ好みがありますが、私はどっちも好きです。
あと、バス停や参道の途中に何軒が茶屋があって、ひやしあめとかそうめんとか鮎の塩焼きとかを食べられます。階段の上り下りで汗をかいた後、木陰の涼しい中で休憩がてら冷たいかき氷とか、はたまた涼しい時期には温かいうどんとか、すてきすぎる。今回はかわらけを投げた山上でひやしあめをいただきましたが、きゅっと冷やされた飴の甘さと生姜の刺激が、汗をかくほど熱を持った身体には爽快でした。


帰りはまたバスに揺られて四条大宮まで。あとは四条をぶらぶら買い物しながら東に向かい、鴨川を渡って京阪に乗って帰るおきまりのコース。京都は道がわかりやすくて良いです。


三尾のうち二つを制覇したので残るは槙尾山西明寺なのだが、これはいまいち地味なのでどうだろう。紅葉を口実にまたくることにしようかな。
しかし、うだるような暑さになる前の京都は、緑も美しくて良いです。また来ます。

*1:実際は、成長した幹を材木として切った後、切り株の脇から伸びた枝をまた次々と伸ばして柱木として使う、株のリサイクルみたいな栽培方法らしいです。使った三つ葉の根っこについているスポンジを水に浸しておいてまた生えてきた三つ葉を使うような感じ。

*2:空海が唐から帰ってくる際に、遣唐使船から「おいらの修行道場に相応しい場所に飛んでいけー」と投げた三鈷が落ちた場所に生えたという三つ葉の松