あおによし

奈良の春日の青芝に腰を下ろせば鹿のフン。
・・・誰だ小百合ちゃんにそんな歌うたわせたのは。


さて、奈良は春日山原始林で、ちょっとハードな日帰りハイクを楽しんで参りました。夏の富士登山に向けて、体力作りの一環です。
修学旅行や遠足で一度は訪れるであろう春日大社の裏側に控える春日山は、千年以上の長きにわたり神域として伐採と狩猟が禁じられ、ひと山ほぼ丸ごと原始林として残っています。市街地に隣接するこれだけの規模の原生林は珍しく、2002年に世界遺産に登録されました。
今回は剣豪の里柳生に抜ける滝坂の道〜春日奥山遊歩道を歩いて春日山をぐるりと巡り、若草山を下って奈良盆地を睥睨しながら戻るというコース。これが、チョー楽しかった!


難波から近鉄奈良線で、特急を使えば30分で行けると言うことが判明し驚きました。毎日近鉄難波の改札前を通っていながらこれまでの人生で近鉄線に乗ることがほとんどなかったのです。おのれの近鉄リテラシーの低さを改めて実感。しかも、平城遷都1300年祭を迎えて浮き足立っている近鉄奈良線は、そこここにせんとくんが存在を主張して油断ならない。駅のあちこちに置かれた身長1mほどのせんとくんフィギュアは鼻筋が変に通っていて、やっぱりこの子ディテールがキモイ!
しかし、近鉄難波は構内が古いせいもあり、駅の窓口とかどこかレトロな感じで旅気分が盛り上がり、駅弁と冷凍ミカンを買いたい気分にさせます。実際買ったのは梅おにぎりとベビースターでしたが。


車窓からの見慣れない景色に「へー」とか「ほー」とかいって、ついでに平城京跡なんかが見えて「おぉ!」とか言っているうちに近鉄奈良駅に着きます。そこから、市内循環バス(外回り)で破石(わりいし)バス停まで10分程度(料金は前払い一律200円)。閑静な住宅街を山に向かってずんどこ進んでいくと、それらしい標識が。「滝坂の道」とか「春日奥山遊歩道」とか書いている方に進んでいくと、うっかりしていると気づかないくらいスムーズにもののけ姫の世界へ誘われます。江戸時代に敷かれたという石畳がところどころ山水でびしゃびしゃしているけど、気がつけばすっかり古道をハイキングしている自分がいます。

この道はせっかく石が敷いてあるものの、雨の後など滝のようになってしまうので「滝坂」の道と呼ばれるとかなんとかあとでしらべたら書いてありました。たしかに、足場はややハード。しかし、ずっと渓流の横を通っているからとりどりの滝を楽しめるし、夕日観音・朝日観音などそれぞれ夕方と朝の光を受けると姿を現す磨崖仏や、荒木又右衛門が刀の試し切りをしたと伝えられる首切り地蔵など見所が多くて、苔むした倒木を眺めたりしているうちに一時間ほどの道のりですがあっという間に分岐点に。

こういう山水があちこちから流れ込んで道がびしょびしょになっていく。

苔むした倒木。ここにも一つの森が誕生か。

夜な夜な森の動物たちがその前に集まりそうな巨木。

木肌に苔のコロニー。

せっせと葉の上を往復していた蜘蛛。餌取りネットを張っていた模様。意外に勤勉。
世界遺産の標識。恐ろしいことに、山道としてはやや広いと思っていたこの道は、遊歩道のみならず「春日奥山ドライブウェイ」でもあり、舗装されていない砂利道を観光バスなんかも通ったりしていた。
山の中を二時間強ほど歩くと、車道に出ます。若草山東大寺の後ろにこんもりしているやま)の駐車場が目の前に広がり、太古の森から一気に文明の世界が戻ってきます。
と同時に、奈良の春日の青芝には鹿。

人間様には目もくれず、黙々と青草を食べる鹿。もっとも、目をくれたらくれたで凶暴なので、そのままスルーしていただいた方がお互いのためなのですが。
国際観光都市らしく、多言語でしかの凶暴さについて注意しています。とくに、「たたく」の項目では、シチュエーションがよくわからないのですがどうやら鹿が右側の三つ編み幼女を虐待している様子。か弱い女子供に向かって何をする気だ。神の使いとして保護されているからって横暴にもほどがある!
鹿せんべい売りおばちゃんの誘惑を振り切って若草山展望台に出ると、眼下には奈良盆地が広がっていました。

天気が良すぎて背景が合成のようになってしまった団体客たち。バスでやってきて、下りだけ自分の足で降りていくというコース。
若草山は三段くらいになっていて、頂上のてっぺんには鶯塚という古墳があります。てっぺんから見ると360度の大パノラマ。なんでも仁徳天皇の皇后磐之姫命の墓と言われているようです。仁徳天皇といえば堺のあの前方後円墳があまりに有名ですが、当時の都は難波の宮。大阪中央区のあたりです。仁徳天皇は磐之姫命存命中に従妹にあたる矢田皇女を后に迎え、そのために磐之姫命と不和に陥ったそうですが、彼女の死後に矢田皇女を繰り上げで皇后に据えています。磐之姫命には気の毒ですが、こんな遠くにお墓を造ったなんてよほど遠ざけたい妻だったのでしょうか。
しかし、そんなレディコミ並みのどろどろ古墳愛憎劇を考えなければ、山の中から出てきた上でのこの眺望はけっこう感動します。
傍らには、やはり鹿。

鹿せんべいくれるんか。」

「なんや持ってないんか。つまらん女やの。」
強欲なケダモノめ。

なお、冬の山焼きをする風景が風物詩となっているこの若草山は、入山期間が決められています。
春期 平成22年3月20日〜6月20日 午前9時〜午後5時
秋期 平成22年9月11日〜11月28日 午前9時〜午後5時

じぇんじぇん知らないで行っちゃったけど、ちょうど入山期間内で良かったです。なお、この期間外でも三段になった一番上の山には入れるので、奈良市内の夜景スポットとして人気のようです。


若草山を下ると、このハイキングコースも終了です。10:30頃スタートして14:00過ぎくらいについたので、四時間弱の道のりです。ちょうど奈良公園の北東側、お水取りで有名な二月堂付近に出てくるので、門前町の茶屋で遅い昼食にします。途中歩きながらあんパンとかキャンディを食べましたが、良い具合にお腹も空いていたので、山菜そばと柿の葉寿司のセットを食べました。美味しかった。
おみやげ屋さんを冷やかしながら、二月堂に向かいます。

店先には、売り物に紛れて看板猫。親子で丸まっていました。


実は二月堂に行った覚えがなく、実物を見てもやはりぴんとこなかったのでやはり行ったことがなかったのかも。十一面観音を本尊としており、本堂は清水寺長谷寺のように西に向かう舞台になっています。


なお、本尊十一面観音は秘仏です。平安後期の『覚禅抄』によればここの本尊の十一面の顔は上下縦に並んでいるそうで、実際にその図は見たことがないのですが、想像するとエヴァ弐号機みたいでコワイです。しかし、これは古い十一面観音の様式ではないかと考えられています。やはり、縦に顔が並ぶのはちょっとキモイので、時代が下るにつれメイン顔がかぶっている宝冠の上にアクセサリー感覚で並べ、今日我々が慣れ親しんでいる十一面観音の姿になったのではないかと。
二月堂の下にはお水取りで使われる若狭と通じているという井戸や、鬼子母神を祀ってザクロがいっぱい植わっているお堂なんかもあります。しかし、やはりこの界隈は記憶にないなー。有名なので行ってないことないとおもうのですが、どうやら興味がなかった様子。


さて、東大寺大仏殿にやってきました。周辺および内部は、大量の多国籍観光客と修学旅行生でごった返しています。

大仏殿の、大仏様のご尊顔が見えるという小窓は閉まっていました。

そのことについて、
「あれはなにCloseなわけ?天気が良くて眩しから閉めちゃったよ的な?盧舎那仏大日如来/太陽を表す)のくせに太陽眩しいとかなくね?つかむしろおまえが遍く光で眩しいっつの。」
などと如来をつかまえてえらそうにdisっていたのですが、実際はそもそも大晦日と元旦の年越しの際にしか開かないそうです。自分の無知が今更ながら恥ずかしすぎて、大仏様の鼻の穴にでも入りたい・・・。


仏「気持ちはわからんでもないけどワシ今ブタクサの花粉症やからやめといた方がええんちゃうかな・・・ずびっ。」
K「これも仏の御心…!」

久しぶりに見ても相変わらずの威容で、現代人の、しかも異文化から来た外国人でもやはり畏れという感覚を覚えるのでしょうか。なんだか自然と手を合わせてしまっている風の人たちが見られました。


それにしても、ベストシーズンの行楽日和とはいえ奈良公園の人混みは半端ない!山から出てきた身としてはいささか当てられ、ふらふらと東大寺を後にしました。大量の観光客からたらふく鹿せんべいを貰ったせいか、あの角を持った野獣たちもずいぶん穏やかでした。


帰りは近鉄の急行に乗って、難波に着いたのは18:00過ぎ。なかなかの大冒険でしたが、日帰りハイキングとしては盛りだくさんで、充実した休日を過ごした達成感と心地よい疲労感でビールが飲めるなら一杯やりたいところです。が、ビールは飲めないのでアイスジャスミンティで乾杯してベトナム料理をかっ食らい、帰路につきました。


山道や歩道や公園など一日歩き回って、シューズやザック、ウェアの相性やコンディションを見るにはちょうど良い機会だったと思います。富士登山前にもう一度一日マジ登山をする予定ですが、それまでに足りない装備を揃えて、富士登山準備としたいと思います。


今回の参考図書。

日帰りハイク関西 (JTBのMOOK)

日帰りハイク関西 (JTBのMOOK)