成層の断面

KyrieEleison2005-03-03


 所用のついでにオフィスの外に出たら、微かに花の匂いがした。

 こんな街のまんなかで花なんて咲いているはずがないのに、春になるとどこからか花の匂いがする。
 これは、木に咲く花の匂いだ。草に咲く花とは違う。
 どこかのオフィスビルにあるルーフガーデンで、梅でも咲いているのだろうか。

 毎年不思議に思っているが、その正体はいまだにわからない。
 もしかしたら本当は匂いなんてしていなくて、この、春の先触れの空気が、記憶にある花の匂いを再現しているだけなのかもしれない。




 ずいぶん日が伸びてきた。それも道理で、あと半月ほどで春分の日になる。
 オフィスを出たときに、まだ明るいのは嬉しい。少し、何かに対しての意欲が生まれる。宵の空気が湿度を含み、しっとりと暖かいのも良い。

 向かいの建物が取り壊されて出来た空き地に、重機が入ってなにやら土を掘り返しているのが窓から見えた。帰り道に横を通りかかると、大阪の城下町の遺構調査をしている旨の表示がされていた。

 こんな、最新設備を備えたオフィスビルのすぐ前に、数百年前の土が剥きだしになっているなんて。ほんの、1〜2m掘っただけで、そんなに長い時間を遡ることが出来てしまうなんて。

 地球上では、時間は縦に堆積しているのだ。
 日常の最中で、そんなことを実感した。



 昨夜、久しぶりに連絡をくれた知人が、誕生日のプレゼントにと言ってものすごく懐かしい写真を送ってくれた。

 十年以上前に出た舞台の写真だ。私はそのとき少年の役で、今でもその冒頭の台詞を覚えている。

 「何気なく見上げた空が、
  あまりに広くて胸がつまった。」


 こんなふうに、最近は思わぬところで過去に遭遇している。