影は溢れ

 街に人が多いと思ったら、給料日の金曜日。
 高温多湿で膨張したような上空に、人々のバイタリティが渦を巻く。


 今日は一日機械仕事で、しかも待機時間が長くて疲れた。
 読み込みを待っている間、近くの席の同僚と世間話をする。あまり社内の人と交流を持たないので珍しがられたのか、なんだかいろいろ構われて余計に疲れた。



 先週入社した部署の新人は、小柄な私よりさらに一回り小柄で、子ウサギのような女子だ。色白で声が小さくて4つ年下で、うっかり保護欲を掻き立てられてしまったりする。

 今日は子ウサギちゃん(仮称)と、二人でランチに行くことになった。
 世代間の隔たりもあり、行く前は「間がもたねー」とか思っていたが、行ってみれば結構楽しくおしゃべりしてしまい、自分のコミュニケーション能力をちょっぴり見直した。やれば出来るじゃん私。

 オフィスに戻り際、子ウサギちゃんは言いにくそうに切り出した。

 「あのぅ、変なこと聞いてもいいですか?」
 「な、なにかな。」
 「あたし…暗いですか…?」

 聞いてみれば、入社してみてうちの連中のあまりのテンションの高さに気後れし、自分は浮いているのではないかと悩んでいたらしい。

 …すげー新鮮だその感性。

 確かにおとなしい子ではあるが、それでもいつも誰にでも笑顔で接し、一生懸命仕事に慣れようと頑張っているのだ。丁寧に仕事をする子なのだ。

 ちょっと、気をつけよう。私のコミュニケーションは少々(精神的に)暴力的なので、どこで傷つけてしまうか分からない。おまけに、部署の連中はみんなサバンナの肉食獣のように獰猛で、フランス人のように身勝手だ。群れを成さない種類の動物たちの群れなので、誰も彼女のフォローができない。

 そもそも私の周囲の人間の持つ知性は、その持ち主に他者に対する劣等感を抱かせないカンジのものなので、それに甘える形で結構傍若無人に振舞ってきたが、そうやって甘やかされた自分の無神経さが人間関係の総てで許されるわけではない。
 このへんで、人付き合いにおいてちょっと自分自身を仕切りなおすいい機会かもしれない。

 「すみません、変なこと聞いて。気持ち悪いやつとか思ったでしょう?」
 「いやまさか!」

 その繊細さに、なんだか愛しくなってしまったよ。




 ちょっとした夏バテ気味である。
 疲れが出ると、すぐにモノが食べられなくなる。味の付いたものを受け付けなくなり、豆腐やヨーグルトや生野菜を、少量口にするのみになる。こういう食生活は、糖分と脂質を著しく欠くので、余計に疲れやすくなる。

 昔から、食との距離がうまく測れない人間なのだとおもう。
 これは、悪い癖だ。


 正しいものを正しく食べて、できるだけ健やかに生きよう。
 これは、自分への長年の課題だ。