Sister's Moon


 オフィスの乾燥した空気にむせながら、うっすら風邪を引きそうになってあわてて薬で抑えたり、耳が千切れそうなほど冷たい朝の大気に全身の動きを止めてみたり、この季節のカラダは結構忙しい。
 それでも、急に降りかかる冬らしさに、戸惑いながらもわくわくしたり。


 先週末は、恋人の住む街に遊びに行った。
 大阪から電車で二時間で、目を疑うような豪雪地帯。針葉樹林に降り積もる雪は、純白のパウダースノウ。空気が清浄な証拠だ。おかげで、雪が固められず雪合戦も出来なかったが。

 雪を楽しむには、暖かい防水ブーツとごついコートが必須だ。それさえあれば、動いているうちに汗をかくくらいだ。
 実際、雪が積もってしまった後のほうが暖かい。地から這い上がる底冷えを、空気を含んだ雪が遮断してくれるのだ。かまくらが暖かいのは、そういう理屈だ。

 明るいうちはもはやハイキングとでもいえるような長距離散歩で雪山を思う存分楽しみ、日が暮れれば庭に積もる雪を眺めながらこたつにもぐって映画を観たり、お茶を飲んでごろごろしたり。


 雪が遮断するのは、冷気だけではない。余計な音も消してしまう。
 雪を被った針葉樹の森の中に聞こえるのは、枝から落ちる雪の音と、お互いの息と足音だけだ。鼻の頭を赤くして子供みたいにはしゃいで新雪の上を駆け回ったあと、ふとその静寂に気づく。
 ここはなんて暖かくて静かなのだろう。


 遠く、雪を降らせる空の遥か上を想う。
 時空を想う。

 いくつかのものが動き、いくつかのものが変わらず留まっている。そういう交錯を、なぜかいつも雪の中で観る。

 白い景色は、普段忘れているものを映し出すのだろうか。