A dead calm
サービス業ゆえに明日はもう仕事始め。
この年末年始は休みが短かった。
例年通り実家に帰ったが、今年は「簡易版正月」みたいな感じで、おせち料理だのにてんてこ舞いになるより、ゆっくり過ごすことが優先されたようだ。
もっとも、一番の原因は母の師が先月亡くなり、彼女が気落ちしていることのようだが。なんとなく気弱になっていて、言動の端々に心細さが滲み出る。
そんなわけで、家族揃って紅白を見ながら大人しく新年を迎え、元旦には恒例となりつつある映画鑑賞、そして、近所に飛来する白鳥観察を楽しんだ。
白鳥は、へたくそなクラリネットのような声で鳴く。長い首が、管楽器のような役割を果たすのか。それにしても、間近でみると案外大きな鳥だ。
大きくて、この上なく優美な鳥だ。
昨日実家から戻り、正月太りに蒼白になるもそんな場合じゃないと体調を戻すべく規則正しい生活をはじめる。実家にいると、養豚場のごとく次から次へと餌を与えられ、しかも、今年は労働量が少なくのんびりだらだら過ごしてしまったのだ。
通常、私は概ねシステマティックに暮らしている。自分のペースを乱すことを極端に嫌うため、付き合いも断りがちだ。
野菜を中心にした三食。清涼飲料やスナックの類はほとんど口にしない。そして、負担にならない程度のストレッチと軽い運動。読書をしながらの長時間入浴。これで、一日ごとにリセットしている。
しかし、実家ではこの正反対の生活になっていた。まぁ、親に甘やかされておくのも、親孝行のうちだ。
昨日はもう、ほぼベジタリアンの食事で、ゆっくり風呂に入り早々に寝た。
今日は朝から宅急便のオニーサンに起こされ、寒いながらも晴天だからとシーツやベッドカバーの類を洗濯。郵便物の類を整理し、手紙を書き、ぜんざいを作って体を温め、残りは寒天を溶かして羊羹にし(←母から教わった)、トートバッグを持って街に出た。自転車には乗らず、歩く。
写真のCMでも言っていたが、お正月の街はいつもより静かだ。
田舎なので、どこのお店も本気で三が日はお休み。地元の大手のスーパーでも四日から。髪を切ろうかと思っていたが、美容院どころかどこもやっていない。開いているのは消防署とコンビニくらいだ。
中高生が、少し退屈そうに連れ立って歩いている。あとは、郵便局に年賀状を出しに行く人たちくらい。初詣もし尽くした感じ。
つまんないなー、なんて珍しく思う。
そのことに、自分で驚く。
恋人といつも散歩している道だが、一人で考え事をしながら歩いていてもたいしたことは考えていないし、いつの間にか恋人のことを考えていたりする。
少々自己嫌悪に陥りつつ、郵便局に行ってコンビニに寄ってたいして収穫も無かった帰り道、恋人から電話があった。見透かされているようなタイミングに、ぎょっとする。
「…なに。」
「おみやげ買いに来ちゅうがやけど、なにがええ?(←すっかり方言)」
「ポン酢とゆず酢(高知なので)」
「わかった。」
恋人は、昨日今日と幼馴染や同窓会で会った人たちのことを楽しそうに話す。私はそれを、『早く戻って来ーい』とか思いながら聞いている。
自分がひどく彼に依存してきているのではないかという危惧を抱きつつ、家路に着く。
余計なことを考えないように、家事に精を出した。貰いものでごちゃごちゃしていたキッチンが、おかげですっかり片付いた。
明日の仕事始めは、忙しくてランチに出る余裕なんて無いだろうから、今日のうちにお弁当のおかずを仕込んだりする。
明日から、また日常が戻ってくる。
恋人も、戻ってくる。
これでいいのだ。