この空を継ぐ者たち
身に沁み込むように静謐な音を聴いて、ようやく自分の輪郭を取り戻す。
季節の底辺から、ようやく朧な光を捉えるようにして、遥か頭上の水面を仰ぐ。
かつて世界は、濃硫酸のように私の精神を焼き、爛れた皮膚で一切に触れなければいけない地獄のようなものだった。
今はただ、希釈されたそれで表面を薄く剥がすようにして磨耗させられ、やがて形を喪うのだろう。気づかされぬほどの優しさで。
世界とは、その向こうに地獄を飼っていてさえもなお平らかで、それがゆえに虚無に同義なのだろうか。
オフィスで私の前の席に座る、琵琶湖畔育ちの青年に「あんなにいっぱいいるのに何でブラックバスは食わねーの?」と聞いたら、「マズいからです。」と当然のように答えられた。
「マズくないサカナなんていないだろう。サカナはすべからくマズい。」と反論してみたら、全方面から責められた。
「自分がサカナ嫌いだからってサカナのせいにしないでください!」
「サカナは美味しいです!」
「アンタの舌がおかしいんや!!」
なんで皆そんなにムキになってサカナを庇うんだ。サカナがお前らに一体何をしてくれたって言うんだ。
よくわかんないけどとりあえず「ゴメンナサイ」とか言ってみたよ。大人だから。
総合病院の待合室で、イエイツを読む。
「こころよ、ここへこないか。」
窓の外は紅花緑柳、雨上がりの風は光を散らすようだ。
しばらくはこの詩集を持ち歩く。
命の糧として。