ひだりきき

ぺたぺた


うちの最寄り駅は、私鉄とJRのローカル線が各々上下線共に30分間隔で発着するようなのんびり静かな田舎駅なのだが、ローカルなりの伸びやかさが気に入っている。


それでも、無人駅ばかりのこの路線では最大の駅になるらしく、駅員さんたちは割りと新人見習いみたいな若い人が多い。そのためか掲示物なんかも健やかな感じの遊び心があって、イベント案内等の手の込んだ手作りのポスターは目を楽しませてくれる。
特に前の冬は、南紀名物のクエ(幻の魚と呼ばれる高級魚)を食べに行くお座敷列車ツアーのプロモートに、駅中クエのモビールがぶら下がってたり窓口にクエのぬいぐるみが鎮座してたりで、ナニゲに目が釘付けだった。


そして、最近プラットホームの乗車位置表示が動物の足跡に。か、かわいい…。


本数が少ないから、当然待ち時間が長くなるのだが、ホームに冷暖房完備の小さな図書室があって、そこで時間を潰すことができる。
この図書室では、何の手続きも無しに自由に本を持って帰れる。しかも、貸出期限なんて無い。それでも、この図書室から本がなくなってしまうことがないのは、別の誰かが、借りた本や自分で買って読み終わった本を置いて行くからだ。そういった地元の寄贈のおかげで、蔵書数はあまり変わらない。
そんなゆるいルールが、きちんと機能している。


夕方、お父さんのお迎えに来て改札口で待っている小さな男の子とか、その男の子に「もうすぐ来るで」と声をかける駅員さんとか、駅前の学習塾の子供たちを見送りに来た塾講師たちとか、そういう労りや好意に拠る交錯が、都会のど真ん中であくせく働いて帰って来た身には染みるのだ。


戦前から建つ古い駅舎には、B29の機銃掃射の痕も残っている。戦場に赴く若者を万歳三唱で送り出したことも少なくないはずだ。そして、戦後の復興期には、国を建て直す木材を産出する要所として栄えた。
今では、往時の繁栄は見る影も無いけれど。


だけど、ずっと変わらず大事にされてきたのがわかる。
人の営みに、愛されてきた駅だ。