森の中の話

マイフェイバリット病院No.1

梅雨が近づいてきているのかぐずぐずした天気が続く中、夏のボーナスの提示があってあってなきがごとき金額に愕然とする羽目になった今日この頃。半年の労働の報酬がこれかよ…!
去年の夏のボーナスの八分の一くらいです。「貰えるだけマシ」ってシャレじゃなかったのね。つーかうちの会社大丈夫か?不況の煽りをもろに受けるサービス業の厳しさを目の当たりにしました。みんながメーカー志向なのはこういうことなのね!
去年の社長の解任以降、彼の子飼いと見なされていた私は会社の中ではいろいろ嫌な想いや面倒な想いをしたりジレンマを抱えたり、フェアじゃないなぁと思うような場面に遭遇したりしていて、それでもなんとか凌いできたつもりでいたのだが、今回は職責も変更され一人で本社所属にされるらしいし、なんだかしんどいなぁ。


ついでというか、このところ三週間ほど微熱が続き、追い打ちをかけるように先週金曜日に食べた牡蠣でお腹を壊し、以来ぐるぐるしたままなので今日はもう会社を休んで、マイフェイバリット病院No.1(なにそれ)の、緑の中にある花と木に囲まれた近くの市立病院に行った。
のだが。

みんなー、いま迂闊に発熱で大きい病院に行くともれなく大変な目に遭うぜー!

まず問診表に「微熱が続く」「下痢気味」と書いた時点でマスクを着用させられ、「保健所に症状を説明して受診してもいいか確認してください」と電話番号を渡され、かつ目の前で物々しく各所に「発熱の患者さんが」と連絡され、いやあのわたし牡蠣食い過ぎと冷えたワイン飲みすぎで腹壊しただけなんスけど…と思いながら素直に保健所に電話して三週間前から続く微熱と先週からの腹痛の症状を説明し、ようやく「新型インフルエンザではないと思われる(←だから牡蠣だってば!)」とお墨付きを頂いて再度診察受付に申し出るも、「念のため」と救急外来の薄暗い一角に設けられた(どうして救急外来ってどこも暗いんでしょうね)どうやらそれがハヤリの発熱外来であるらしいどう考えても元物置の特設待合室に一人で隔離され、医師がやってくるのを孤独に待たされました。おかげで、下がりかけてた熱がまた上がりやがりましたよ!

新米らしき女医さんが若干テンパりながら診察してくれて、ようやく「インフルエンザとは違うと判断していいでしょう(だから牡蠣だってば!)」と言いながらも端末に「肺炎の疑いあり」とか入力していて、新たな疑惑に冷や汗が滲みだしつづ採血検尿レントゲンと指示された通りの検査を終えて再度診察室に戻ったところ、結局出された診断は軽い腸炎では?といったもので若干尿に血液が混じっていることから微熱は疲れだろうから無理せず休めと、処方された薬はビオフェルミンだったよ!
こんなことならヤクルト飲んで寝てた方がなんぼかマシじゃ!


いやしかし、珍しい目に遭ったな。なんか面白かったので、話のネタに行って良かったかも。


実際、疲れが溜まっていたんだろうな。まぁよくある三十独女会社員が抱える類のね。
みんな抱えている程度の悩みなんだからと思っていたけれど、だからと言って放置していいわけではなく、それぞれにきちんとケアしないといけないのだろう。上司にも、面談の際にそのことを指摘された。いま私の置かれている立場で何もなくいられるはずはない。儘ならない状況なのは事実なのだから、ストレスはストレスとしてきちんと向き合わないと、見ないフリしてたらそのうち倒れるで、と。
自分を可哀想がるのではなく、ちゃんと発散させないとな。


病院で待っている間、佐藤初女さんの本を読んでいた。青森岩木山の麓で、「森のイスキア」を主宰しているおばあさん。そこには疲れた人や心を病んだ人が訪れ、初女さんの心をこめたご飯で癒しを得て力を取り戻し、また日常に帰っていく。
食べることは生きること。
初女さんの話に、『すべて、疲れた人、重荷を負っている人は、わたしのところにきなさい。わたしがあなたがたを休ませてあげます。(マタイ11-28)』という聖書の言葉を思い出す。


診察が終わったのは昼を回った頃で、おなかの具合が悪いので昨日の昼食以来絶食していたためにさすがにふらふらしてきていた。なにかお腹に優しい甘いものを食べたいと思ってバスを待っていたら、ちょうど到着したバスから教会で顔を合わせるおばちゃんが降りてきた。
 「いやどないしたん?具合悪いん?」
 「ちょっと発熱が続いていたもので。でも別に変な病気とかじゃなくて薬貰って帰るところです。」

そういうと、なら良かったけど、とおばちゃんはうなずいて、ごそごそとカバンから小さな包みを取り出した。
 「これ、私が作ったの。食べて。」
そう言って渡されたのは、ふた切れのパン。酒酵母の匂いのする、小豆を混ぜ込んだパンだ。
 「わぁ、ありがとうございます!」
お礼を言うと、ほなお大事にな、と会釈して病院の中に消えていった。たぶん、ボランティアで病床訪問をしているのだろう。いつも肌艶が良く笑顔で、元気にいろんな人のために動き回っているおばちゃんだ。
ベンチに座って、まだほの暖かいパンをぱくっと食べたら、ほんのり小豆の甘い味がした。


病院でのちょっとした騒動で、仕事のぐちぐちした悩みはなんとなくどこかに行ってしまって、それどころかなんだか楽しくなってしまった。
そして、お腹がすいたら食物が与えられた。


必要なものは、そのとき与えられるものなんだな。
こういうとき、神の計らいを感じる。


おむすびの祈り「森のイスキア」こころの歳時記 (集英社文庫)

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