雨の降る所

恋人が週末出張でうちに車をおいていったので、そのまま借りて日本百名山の一つ、奈良県大台ヶ原に行ってきました。降雨量日本一と教科書で習った山です。GWにも行ったのですが、高山のため雪が積もっており、そのまま引き返してきました。今回はそのリベンジと、今月末の富士登山レーニングを兼ねて。自分の体力と高山耐性を試すために空気の薄さが実感できるような高めの山に登っておきたかったのですが、結果的にはよくわからなかったです。そうはいっても意外と体力というか持久力もあるし、高山耐性というか何事にも鈍いタイプなので。

唯一の具体的な実感。


さて、梅雨の晴れ間とはいえ、例え下界が晴れていようが降ってしまうのが山の雨。しかもここは降雨量日本一の山。まぁ、降ったら降ったでレインウェアを試す良い機会だと思っていたのですが、結局降られることはありませんでした。梅雨のこの時期にこれはラッキーなんだろうなー。
駐車場は結構広いのですが、6割くらい埋まっているカンジ。グループ登山やドライブなど、客層や目的に準じて服装も様々。また、ここに辿り着くまでに何人か見かけましたが、自転車で登ってくる人たちも!女子もいました。スゲー。移動手段としてあまり自転車を好まない私ですが、それは登りがちょっとした坂でも半端なくツライからです。だったら歩いた方がマシ!でも、自転車でここまで来たら下りは気持ちいいだろうなー。
一気に1600mくらいの高地まで車で登ってきたので、身体を慣らすために、食堂でちょっと早いお昼ご飯にうどんを食べたりトイレに行ったり(山なので有料)ビジターセンターで地図を買ったり(職員の女の子とおばちゃんがガールズトークを繰り広げてて声かけるのに気が引けた…「(男を)奪われるで」とかそういう生々しい感じで続きが気になって仕方ない。)、かつサンダルにTシャツで来ていたので登山用の装備を準備をしたりと小一時間ほど過ごし、12時前くらいに出発することにしました。


コースタイムはおよそ3時間半。途中晴れたら富士山が見えるという日出ヶ岳大台ヶ原のシンボルともいえる断崖絶壁の巨岩 大蛇粠(だいじゃくら)、シオカラ谷の吊り橋など、整備されたコースは変化に富んでいて一人トレッキングでもかなり楽しめます。また、運が良ければシカなどの野生動物に出会えることも!
期待に胸をふくらませつつ、登山口からコースに入っていくと、木立の中に延びる登山道をしばらく歩きます。

途中、何度か山水が沢となって道を横切りますが、気にせず(ついでに前回の高野山登山の際に着いたままの泥を落としつつ)パシャパシャと踏んでいきます。これがなかなか気持ちいいです。こんな感じの良い散策が続くなら楽勝です。


あちこちからいろんな小鳥の鳴き声がするのですが、野鳥の種類も多彩なようです。初夏の恋のシーズン真っ最中なのでしょう。お盛んなことです。

しかし、目視できたのはカケスだけでした。そんなのうちの近所にもいる!どうやら私は鳥に対する親和性が低いようです。実際、田舎に住んでいる家禽くらいしか見分けがついていない感じで、野鳥リテラシーは極めて低いと言って良いでしょう。ここはひとつ、そっち方面を開発して、せっかくの山登りをより楽しめるようになりたいものです。
さて、ここ大台ヶ原は野生シカの多いことでも有名で、その食害対策があちこちで見られます。


この木は網タイツを履かされているワケではなく、シカに樹皮を食べられないようにネットカバーを被されているのです。
こうして、結構な費用を投じてシカ対策が施されているそもそもの原因は、なんと1959年の伊勢湾台風まで遡るそうで、台風で木々がなぎ倒された大台ヶ原は今まで木が遮っていた日光が表土に当たるようになり、土が乾燥して荒れ笹が茂るようになり、そこへ笹を好物とする鹿が集まったそうです。冬場など笹が雪に埋もれた季節は木の皮を食べるようになり、山が荒れてしまうらしいのです。どうせならシカを狩って「大台鍋(シカ肉入り)」とかのご当地鍋として売り出してその収益で森を保全してはどうか、シカも減るし一石二鳥ではないか、とか不謹慎なことを考えてしまいましたごめんなさい。ここは保護区なので、動植物の採取や生態に影響を与えるような行為は禁じられています。
さて、途中コンクリートの階段などありつつ、30分ほどで日出ヶ岳に辿り着きます。ここが一番高い場所で、東の方には富士山が見える事もあるそうです。三角点がここにあり、360度の大パノラマが見られる展望櫓があったりと少し開けたところなので、ちょうどお弁当を広げて休憩している人たちがたくさんいました。

年配のグループもいましたが、関西のオバちゃんたちは標高が低かろうが高かろうが空気が薄かろうが濃かろうがその生態は変わることがないという事実を確認し、日出ヶ岳を後にして次のポイント正木峠に向かいました。


緑のトンネルの下を木の階段がずっと続いて、ちょっとニングルとかが出てきそうな雰囲気です。しかし、この覆い被さる枝が見た目のメルヘンさを裏切ってザックや帽子に引っかかって歩きにくいことこの上ない。木ならば太陽に向けて生えろ!背筋を伸ばせ!と叱咤したくなりながら、峠に出ます。すると、景色は一転。



樹木の墓場です。伊勢湾台風の通り道だったこのあたりは、倒木がそのまま乾燥してまるで白骨を晒すような姿になったそうです。

ガスまで出てきて、陰鬱な風景を更に盛り下げます。
そんな中、シカ発見!

生い茂る笹をもぐもぐ食べていました。奈良公園で見るよりずっとスリムで敏捷です(そりゃそうだ)。おかげで機嫌が直りました。
峠を下ったら、また木々が茂る道になります。途中、やけに石が積んである場所があったりして、あんまり高く積むと父さんにバベられるぞ…とか心配になります。

それにしても、このコースは道が整備されているので多少ラフな場所もありますが、迷う心配だけはなく歩けます。後にはゴミ拾いボランティアのグループが職員に引率されていました。ゴミを拾いながら、大台ヶ原の自然や動植物、歴史をガイドして貰い、この山に親しもう!という趣旨のようです。

こういう人たちの努力のおかげでこの環境が守られているのです。


さて、突然森が拓けたと思ったら誰か立っています。神武天皇です。

「やぁ僕が神武だよ!よく来たね。」
和風サンタクロースかと思いましたが、なんでもこのあたりにいた魔物を「牛石」に封じ込めたという話があるそうで、こんな高いところでご苦労様な事です。
やがて、コースとは少し外れて今回のクライマックス、大蛇粠に向かいます。
イキナリ道が細く岩ばかりになり、人がすれ違うのに注意が必要になってきます。大蛇粠から戻ってきたグループの男性が『あら、一人で大丈夫かいな』と心配してくれたのを『まだ若いから大丈夫やって!』と流されて心配になりました。たぶんオッチャンたちが思ってるほどオレ若くない…。若干警戒しつつ、前を歩く山ガールがおそるおそる歩いているのを良いことに慎重に進み、岩を登るとそこには大絶景!


遠くの崖にすごい落差の滝が見えます。惑星パンドラみたいです。身長3mほどの青い人とかが翼竜に乗って飛んでいそうな世界です。

まったく、パノラマでお見せできないのが残念なのですが、かといって実際私も断崖に突き出た巨石の上に立っているというシチュエーションの恐怖にやや視野が狭くなっていたようなので、私がこの目で見たものとそう変わりません。怖いからあまり具には見られませんでした。後ろから来た若いカップルの女の子が平気で岩の先端に立ったりして、こっちが見てられない!落ちたら見つからないよー!
しかし、前に歩いていた山ガールの彼氏が一人の私に「よかったら写真撮りましょうか?」と声をかけてくれたので、せっかくなので記念撮影して貰いました。しかも、なかなかの腕前。山慣れしてる風情だし、このロケーションでたいした余裕だ。
ありがとう青年。彼女の山スカート可愛いね。私もあと7歳若かったら(イヤに具体的だな)そういう格好をしたかったよ。
しかし、撮って貰った写真を後で確認したら、恐怖にやや引きつった笑顔の自分が痛々しかったです。


さて、大蛇粠からもとのコースに戻ると、道程も後半になります。シャクナゲが群生した中を下るので、シーズンに来たら結構な見応えがあっただろうな。しかし、コース前半と比べると急に石だらけの大きな段差を降りたり、沢に向かって濡れた岩をよじよじ降りたりしなければならなかったりで、手のひらを返したようなラフさです。後半の疲れた足にはこの段差や木の根を避けつつの道は結構堪えるので注意が必要です。しかし、そうはいっても身軽さが信条(だったっけ?)の私は、ひょこひょこと降りてしまうので、下りの加速もあって結構なスピードで降りて行けたようです。沢には、コースタイムの標準より30分早い時間でした。
沢には吊り橋が架かっています。ぶわんぶわんといった感じで上下に大きく揺れるので、人がいないのを良いことに一人で跳ねて遊んでしまいましたが、危険なのでよい子はまねをしてはいけません。


そこからは、また一気に200mほどを登ります。30分で。従って、階段が多いです。

こういうのが一番疲れます。しかし、富士山はほとんどこういう階段なんだよなー。これも訓練と思って頑張るのですが、登りは一番エネルギーを使います。一気に汗が噴き出すし、息が上がります。こまめに水分補給しつつ、塩梅の飴なんかを舐めながら階段を上りきると、今までの道が嘘のような素っ気なさ。

このまま森を抜けて、ゴールとなりました。休憩を含めて3時間ほどなので、標準と比べると結構なハイペースだったようです。


踏破して思ったのは、好みもあるでしょうが、このコース、逆回りの方がよくね?ということです。最初にあの沢の前後のような辛い思いをしておけば、あとはゆっくり快適なトレッキングを楽しめるし、疲労で足場を崩すような危険もないように思います。が、登山はある程度の困難が達成感となり次への克服欲へと繋がるようなので、やはりこの順路で良いのかもしれない。M的な意味で。


こんな高山で気温は低かったものの、岩の上り下りなどで全身を使ったせいか暑くて仕方なかったので、車でザックを下ろし靴を履き替えてから売店でアイスクリームを買って、ベンチで食べました。気持ちよかったー。
帰りには麓の温泉によって、汗を流してウェアも替えて、さっぱりして帰りました。登山&温泉の組み合わせはレジャーとしては最強です。おかげでよく眠れました。


しかし、先週の高野山の過酷さに比べると、三時間ほどのトレッキングだと物足りない感じになりつつあります。しかも、大台ヶ原登っちゃったらこれ以上高い山が西日本にはあまりなく。秋くらいには南アルプス縦走とかしちゃってるかもしれません。また、これ以上標高が上がると、私のペースの早さは逆に高山病の元になりそうなので気をつけないと、という教訓。貧乏性だから早足なんだよねー。もっとゆっくりゆったりすることを覚えたいものです。