六根不清浄


八月最後の土曜日、いつも私の思いつきの餌食になる友人Tと共に大台ヶ原に登り、勢い余って翌日は大峰山麓の洞川に行って奈良県南部を満喫して参りました。


七月に初めて一人で登って以来、実は三回目になる大台ヶ原。うちから車で二時間弱だし、山奥の割には道もきれいで走りやすいし、なんと言っても標高が高くて涼しいのです。下界が37℃の猛暑日を記録していても、20℃以下の過ごしやすい気温で、駐車場に着いた時には思わず「涼しー!」と叫んでしまいました。しかし、Tの日頃の行いが良くないのか徐々に雲行きが怪しくなり、一気にガスに覆われて小雨が降る始末。

T「・・・レインウェアデビュー?」
K「ポジティブにもほどがあるだろう!」

そうはいっても、まずは食堂で腹ごしらえと昼食に山菜そばと柿の葉寿司なんぞを食べていると、徐々にガスは晴れうっすら青空がのぞくように。実はワタクシ、希代の晴れ女と呼ばれております。駅直結の職場でオフィスワークに従事していることもあり、一年の内でも傘を差すのはおそらく30分に満たないかと。行楽先で雨に降られたことはほとんどなく、登山の際も頂上にかかっていた雲は私の登頂に合わせて晴れるようになっております。

K「晴れてきたよ。」
T「・・・ありがとう、K。」
K「いやそれほどでも。」

さて、今回は初めてコースのハイライトである断崖の大岩、大蛇恕Pの先端まで行きました。

今までは足が竦んで途中までしか降りられなかったのですが、岩の端の鎖まで行って下を覗き込むなどの偉業を成し遂げました!ところが傍らでTは余裕綽々の様子。崖っぷちが似合う女だな!
しかし、先客だったカメラクルーを同行した年配登山ツアー客たちが、口々に「あ、山ガールだ。」と言われ居たたまれず思わずうつむく我々。確かにこの格好はいま流行りの山ガールファッション!だってウェアがいろいろ可愛かったんだもん!しかし、自称”山オッサン”の私たちには、”ガール”と呼ばれるには負い目が多すぎました。

T「山ガールってきっとKのことを言ったんだよ。ほら、山スカートはいてるし。」
K「なぬ!オレに責任転嫁か!」

醜く言い争い、かと思えば道中も金と性について耳を覆いたくなるような話を下世話に語るなど、一皮剥けばとてもガールとは言い難い生態を晒す私たち。下山後は温泉に立ち寄りゆっくりと汗を流し、さらに近くの居酒屋で素朴な田舎料理に舌鼓を打つなど、やはり行動原理は中高年男性のそれと酷似しておりました。


しかし、勢いづいて翌日は奥吉野方面に行くことに。Tが天河弁財天やら大峰山には行ったことがないというので、せっかくだからと山奥の寺社仏閣巡り&温泉という年寄りじみた行程になりました。
いままでしばしば恋人と二人で温泉に訪れていた、大峰山の麓である洞川というこのエリア、改めてゆっくりみるとキャンプ場があったり修験者と温泉で栄えた古い旅館が並んでいたり、奈良で有名な「ごろごろ水」という名水で作られた豆腐や川魚が楽しめるなど、一日では足りないくらいコンテンツが盛りだくさんです。
特に、メディアに出すことが禁じられているためあまり知られていませんが、というか私もよく知りませんでしたが、修験道の根本道場があり全国各地から多くの老若男女の行者で賑わうなど、これまで入り口の温泉に入ってそのまま帰っていましたが、奥に行けば行くほど修験修験した街でした。
石灰質の岩盤で形成されているというこの土地には鍾乳洞もいくつかあり、また街の真ん中を清流が様々な表情で流れていきます。

もちろん、役行者大峰山に修行に入った際、女人禁制のため山の入り口で無事を祈ったという母公のお堂など修験道に関わる史跡や寺社も多く見られます。そして、有名な大峰山の女人結界。入り口までは女性でも行けますが、結界の先に進むことはできません。背伸びするように鬱蒼とした林の向こうを覗くと、続々と山頂から修行を終えてきた行者たちが降りてきます。見上げれば、遙か高く見える断崖が、あの「西の覗き」のあたりのようです。登るのも大変なら、そこから吊されるのも大変・・・というかたまったもんじゃない!絶対ちびる!
しかし、小学生くらいの男の子なんかもちらほらいて、お父さんやおじいちゃんに連れられてきたようですが、下山してきた顔は幼いながらもどこか誇らしげな様子で、あの崖の上でちょっと強くなったんだろうなーと想像ました。一体どんな目に遭ったの・・・。


しかしこの洞川という街、なんかとにかく老いも若きもみんな親切!ぷらぷら歩いていたりお茶屋でご飯を食べたりしていると、あちらから声をかけてくれて、名物の茶がゆの作り方やこの辺の独特の食生活など、あれこれ教えてくれるのです。

「せっかくこんな山奥まで来てくれたんだから、楽しんでってや。」と堂守りのおばあちゃんにお茶とお菓子をごちそうになりましたが、この土地のことを小さな事でも良いから知って楽しんで欲しいというホスピタリティがあちこちに溢れていました。この街の人たちが、この街のことをとても好きなんでしょう。私たちも、よその土地なら覗くだけで終わってしまうであろう場所でも、声をかけて貰って話を聞いて興味を持って、では体験してみよう、そして面白かった、という経験をいくつかしました。あちらから一歩近づいてくれて、でも押しつけがましくない距離感で接してくれるという、なかなか学ぶところの多い街でもありました。古くから信仰の街として栄え、数多くの修験行者を迎え癒やしてきた土地の血脈みたいなものがあるのかもしれません。
しかも、大峰山系は魅力的な山がいっぱい!「西の覗き」を含む山上が岳と呼ばれるエリアは女人禁制なので入れませんが、他にも標高1,700m級の個性的な峰々が我らを待っています。また、登山後は温泉と山の幸川の幸が楽しめるというパラダイス。もっとゆっくり楽しみたいので、早速来月には一泊で登山に訪れたいと思います。


またひとつ、お気に入りの土地ができました。
こういう場所がいくつかあると、ぐっと生きやすくなります。